監督インタビュー トム・リン(林書宇)

これは僕たちの物語だ

――1997年の台湾、新竹の高校生たちが主人公ということは、この映画はトム・リン監督自身の物語といっても差し支えないでしょうか?

「80%は僕の高校時代の物語です。僕と友人たちの間で起きたさまざまなエピソードを盛り込んでいます。そして、それらをひとつの物語として練りあげるために、残りの20%にフィクションを混ぜて完成させたというわけです」

――当時の高校生にとっても、台湾プロ野球界における八百長事件は非常にショッキングな出来事だったと思うのですが?

「おっしゃるとおり、この野球賭博事件は当時の高校生に多大な影響を与えました。僕たちの青春時代には、外から刺激を受けることは稀だったので、野球はいわば精神の糧といっても過言ではありませんでした。だから、その野球の試合が八百長だったと判ったときのショックは計り知れないほど大きかったのです。それは、社会に対する失望でもあったし、同時に大人の世界に対する大きな失望でもありました」

――9人の登場人物が演技アンサンブルを構築するうえでの、キャスティングのポイントを教えてください。

「先程もお話ししましたように、これは僕自身の物語ですから、高校時代を振り返って、当時の仲間たちを彷彿させるような俳優キャスティングするのが狙いでした」

――ちなみに監督自身はこの映画の中では誰に相当するのですか?

「タンですね。タンが僕に最も近いんですけど、最も捉えどころのないのもタンなんです。だから彼がどういう人物なのか、見据えるのが難しい、とても複雑な人物になりました」

――この映画を監督することで、新しい第一歩を踏み出したという感覚はありますか?

「心の癒しになったとは言えるでしょうね。実は、ラストに登場する野球選手はリャオ・ミンシュン(廖敏雄)さんご本人なのですが、最初、僕が執筆した脚本には怒りが満ちていたんです。その青春の怒りをぶつける捌け口が、リャオ・ミンシュンさんが出演して下さったことで見つかったような気がしました。つまり、この映画の製作過程そのものが僕自身の成長の記録だと感じています。青春の怒りから時代を懐かしむという柔らかい感じに変わっていったのです」

――最後に日本の観客にメッセージを!

「日本と台湾の映画は、お互いにいろいろと影響しあっていると思います。たとえば、ホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督は小津安二郎監督の作品が大好きで、日本の映画もとても気に入ってらっしゃいますし、是枝裕和監督はホウ・シャオシェン監督の作品がとても好きだと伺っています。ですから、僕の作品も日本の皆さんに受け入れられて、気に入っていただければ嬉しいです」

(第21回東京国際映画祭ティーチインより抜粋&再構成) © 2008 TIFF

PROFILE

1976年2月8日、台湾、新竹生まれ。幼少時より台湾とアメリカで育ち、高校時代は、国立新竹実験中学で二ヶ国語の授業を受ける。台北の世新大学映画科在学中の97年に初短編映画「臭覚」“The Olfactory System”を発表、台湾・金馬奨短編賞候補となるなど注目を集める。その後、カリフォルニア芸術大学映画・ビデオ科で学び、在学中の02年に短編「跳傘小孩」“Parachute Kids”がヴァンクーヴァー国際映画祭タイガー&ドラゴン部門に出品される。帰国後の05年には、短編『海岸巡視兵』を発表、台北国際映画祭作品賞に輝いたほか、シンガポール国際映画祭、ジャカルタ国際映画祭に正式出品され、日本のアジア海洋映画祭イン幕張で特別上映されるなど、国内外で高い評価を受けた。一方で、チェン・ウェンタン(鄭文堂)監督のテレビドラマ「寒夜續曲」(03)、ツァイ・ミンリャン(蔡明亮)監督の『西瓜』(05)、チェン・ヨウチェ(鄭有傑)監督の『一年の初め』(06)、ゼロ・チョウ(周美玲)監督の『刺青-tattoo』(07)の助監督を務めるなど、順調にキャリアを築く。本作『九月に降る風』(08)が長編デビュー作。